アントニオ猪木の隠喩的プロレス

 アントニオ猪木は、あまり強い打撃を受ける事を好まないプロレスラーであった。そもそも新日本創立以降のアントニオ猪木の体型が、相手の強い打撃を受ける事を前提としていないものだ。
 どちらかというと相手の強い打撃は半身でそらし、そして、その弱々しさが相手の打撃の激しさのリアリティを感じさせてきた。
 しかし、私が知る限り、アントニオ猪木が強い打撃を能動的に受けきった試合があった。大木金太郎との試合である。大木金太郎の強烈な頭突きを受けきる猪木の姿は、相手の激しい打撃を受けきる昨今のプロレスの光景に通じるものもある。
 けれど、アントニオ猪木は、大木の頭突きを受けて、仁王だちはしない。そして強烈な頭突きを浴びる自身の患部でもある頭部を直接用いての痛みの表現もしない。
 頭突きを受けたアントニオ猪木が痛みを表現する部位は、自身の長い足である。
 自身の長い足の膝裏をマットに静かに寝かせ、あるいは膝を折りたたむことで、自身の頭部への痛みを表現していく。
 相手の強烈な打撃に我慢できない自分の痛みを表現し、それでも前に出る自身を表現しようとする。頭突きに対する痛みのメタファーは自身の長い足である。
 純プロレス全盛の昨今であるが、行き過ぎたディフォルメで痛みと感情を表現しようとしている感もある。
純プロレスにおいて、膝の動きだけで頭部の痛みを表現できるような純文学的レスラーの出現を待ちわびたい。