大阪球場

 学生の頃、大阪球場でバイトしていた。当時の球団「南海ホークス」のナイトゲーム後の清掃の仕事であった。箒で掃いたゴミをすり鉢状に落とし、そして、すり鉢状に追いかけるだけの、単調な仕事である。
 応援団の席の床からは麦酒の匂いが漂っていた。貧乏学生の身分で、せいぜい、トリスを何かで薄めるしか酩酊の機会の無かった私は、コンクリの床から立ち上がる麦酒の匂いに酩酊を夢想しながら、すり鉢のスタンドを下に降りた。
 応援団の席を過ぎれば、箒で掃くのは限りなく透明に近い塵しかなかった。誰も座らなかったはずの大阪球場の塵が一体どこから飛んできたのかと、ミナミの上空を見上げた。街の喧噪は、自動車の音しか聞こえない時間だった。
 朝を迎え、仕事を終え、おばちゃん二人組の住むスタンド裏のテントに向かった。黒く焼けた顔のおばちゃんが生活感のある手つきで千円札を数え、私に七枚渡してくれた。
 日当を得て球場を後にしたら、南海そばか、マクドナルドで、朝食を食べたい気持ちもあったが、我慢してまっすぐ南海電車の改札口に向かった。
 授業の開始に間に合い、点呼を終えると、机に伏し、眠りについた。夢を見る体力もなかったが、机に流れた唾液の匂いで、授業を終える前には目が覚めた。